芥川賞作家として知られる金原ひとみさん。
10代で鮮烈なデビューを果たし、その後も一貫して「生きづらさ」や「家族との葛藤」といったテーマを描き続けてきました。
その独特な作風の背景には、複雑な家族関係、特に母親との関係が大きく影響しているといわれています。
今回は、金原ひとみさんの母親との関係性に焦点を当て、作家としての原点を探っていきます。
母親との衝突、不登校経験、そして現在の子育て観まで、金原ひとみさんの人生と創作活動に深く関わる「母親」という存在について、詳しく見ていきましょう。
金原ひとみの母はどんな人？世間体を気にする“普通”へのこだわり
金原ひとみさんの母親は、一般の方です。
そのため、職業や顔写真といった詳しいプロフィールは公表されていません。
しかし、金原さん自身のインタビューやエッセイの中では、母親について率直に語られており、その人物像が浮かび上がってきます。
- 過保護で過干渉な傾向がある
- 世間体を非常に気にする性格
- 子どもに対して強い期待と抑圧を持つ
娘が“普通”であってほしいという思いがとても強く、少しでも周囲と違う行動を取ることに非常に敏感だったといいます。
母は、世間体を気にするタイプだったので、いわゆる「普通の子ども」に育ってほしいと思っているんだろうな、というのはひしひしと感じていて。
出典：yoi
たとえば、金原さんが小学生の頃から学校に馴染めず、不登校になったとき。
母親はその状況をまったく受け入れず、泣き叫ぶ娘を無理やり登校させることもあったそうです。
母は私が登校しないことに激怒してましたね。引きずられて登校させられることもありましたが、私もあの手この手で応戦。
出典：STORY
母親にとって、娘が“普通”のレールから外れることは、どうしても許容できないことだったのかもしれません。
その結果、金原さんは家庭でも学校でも居場所を失い、心の拠り所を「物語の世界」に見出していくことになります。
幼い頃、最も頼りたい存在である母親に理解されなかった――
その事実は、言葉に尽くせないほどの孤独と悲しみを金原さんに与えたことでしょう。
けれどその痛みこそが、彼女の中に「書く力」を芽生えさせた原点なのかもしれません。
母との衝突と決別｜金原ひとみが語る不登校と心の居場所
金原ひとみさんと母親の関係は、非常に複雑で、そして痛みを伴うものでした。
小学4年生で本格的に不登校に
金原さんが本格的に学校へ行かなくなったのは、小学4年生のとき。
当時から集団生活に強い違和感を覚えており、「同じ空間にずっといるのが息苦しかった」と語っています。
翻訳家である父・金原瑞人さんは、そんな娘の感性を理解し、「行きたくないなら無理に行かなくていい」と柔軟に受け止めてくれました。
父はあんまり構わないんですよ、学校にも行かなくていいっていってたし。母親は逆で、厳しかったですね。
出典：青春と読書
一方、母親は“普通”という枠から外れた娘の行動をどうしても受け入れられなかった様子。
「学校に行かないことは世界の終わりだ」とばかりに悲観し、なんとしてでも学校へ通わせようとしたといいます。
居場所をなくし、本の世界へ逃げ込む日々
学校にも、家庭にも居場所がなかった金原さん。
そんな彼女にとって唯一の心の拠り所になったのが、小説の世界でした。
小学６年生のときに父親の仕事の都合でアメリカに滞在していた頃、「日本語を忘れないように」と父親がたくさん小説を与えてくれたのがきっかけでした。小説を読むことで、現実から逃れられる時間が生まれて、すごく救われました。
出典：yoi
現実に居場所がなければ、物語の中に作ればいい。
金原さんはそうして、自分の“生き延びる術”を見つけていったのかもしれません。
20歳前後で迎えた「決定的な断絶」
思春期を経て、金原さんと母親の溝はさらに深まりました。
20歳のころには、完全に断絶。
母は子どもを抑圧する人で、私が20歳ぐらいの時に、決定的に断絶をしました。（中略）
出典：kodomoe
そして現在も、母親とは心の距離を保ち続けていると明かしています。
私自身、母親とは魂を突き合わせるようなコミュニケーションは諦めていて、虫のような存在と認識してやり過ごしているので。
出典：yoi
ここまで強い言葉で母親との距離を語るというのは、そこに至るまでの葛藤がいかに深かったかを物語っています。
金原さんにとって母親とは、「理解されたいと願っても届かない存在」。
その関係性は今もなお癒えない傷として心に残っているのでしょう。
金原ひとみの母からの影響｜“抑圧”が生んだ文学の源泉とは？
母親との葛藤は、金原ひとみさんの創作活動にも大きな影を落としています。
金原ひとみさんの作品には、次のようなモチーフが繰り返し登場します。
- 社会や他者との折り合いがつかない人物
- 居場所を探す主人公
- 孤独感や疎外感を抱える登場人物
こうしたテーマの背景には、幼少期に感じた“家庭という名の閉塞感”があると、本人も明言しています。
抑圧された子ども時代が、生きた言葉になる
母親からの抑圧、「自分は愛されていないのでは」という孤独感――。
それらは金原さんにとって、単なる苦しみではなく、「書く力」の源になったものでした。
不登校は自分が母から勝ち取った勲章であり成功体験でもありました。
出典：STORY
“普通であること”を強く望んだ母に対し、金原さんはその枠に強い違和感を覚え、葛藤を抱えながら自分の言葉を見つけていったのです。
書くことは、自分を保つ手段だった
母親との関係から生まれた苦しみは、金原さんの内面を深く掘り下げるきっかけとなり、結果として作品に濃密なリアリティを与えました。
小説を書くことは、自分を客観的に見つめ、自分の中にある抽象的なものをストーリーや文章に変換していく作業です。これはリストカットや摂食障害などと同じように、現実を生きていくための対症療法と言えるかもしれません。
出典：読売新聞
現実では受け止めてもらえなかった感情を、フィクションの中でようやく「存在させる」ことができたのです。
それが金原ひとみさんにとっての文学だったのかもしれません。
抑圧を超えて生まれた言葉たちが、同じように生きづらさを抱える読者の胸にも届く――。
そんな希望を、彼女の作品はたしかに宿しているのだと思います。
母を反面教師に｜金原ひとみが選んだ“対話する子育て”
現在は、中学生と高校生の2人の娘を育てる母親となった金原ひとみさん。
自身の経験から、「母親とは真逆のアプローチで子育てをしたい」と語っています。
反面教師的に、私は何かあった時に言葉で話し合える関係性を娘と保っていきたいと思っています。
出典：kodomoe
具体的には、次のような子育て方針を持っているそうです。
- 子どもの意思や意見を尊重する
- 頭ごなしに何かを押し付けない
- 何かあったらすぐ相談ができる関係
これらの考え方には、かつて母親との対話が叶わなかった自身の経験が色濃く反映されています。
金原さんにとって、実母は子育てにおける“反面教師”。
その存在が、今の親子関係を築く原動力になっているのです。
あと相手が嫌だと思ったことを強要しないこと。相手がしたいって思ってることを咎めないこと。相手の意思を尊重するということは、育児に限らず人間関係において大事なことだと思います。
出典：kodomoe
また金原さんは、「家族」についても固定的に捉えるのではなく、個人と個人の関係性で成り立つものだと考えています。
こうした価値観は、単なる反面教師というだけでなく、「自分自身を見つめ、変わろうとする努力」があって初めて実現できるもの。
金原さんの姿には、文学者としての深い洞察と、一人の母としての葛藤と成長の軌跡がにじんでいます。
まとめ
母親との関係は、金原ひとみさんの人生や創作活動に大きな影響を与えてきました。
過干渉で抑圧的だった母との関係に悩み、対話を諦めた過去。
その痛みや孤独感が、彼女の作品にリアリティを与え、深みをもたらしてきたのです。
一方で、自らが母親になった今、金原さんは“対話”を軸にした新しい親子関係を築こうとしています。
その姿勢には、過去を乗り越えようとする強さと、変わる努力を惜しまない誠実さがにじんでいます。
母との断絶を経験したからこそ、娘たちとは心を通わせたい――。
その想いは、金原ひとみさんの中で静かに、けれど確かに根づいているのです。
これからも、作家として、そして一人の母として進化し続ける金原ひとみさんを、私たち読者も温かく見守り、応援していきたいですね。
それでは、ありがとうございました！
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